ホワイトノイズ、ピンクノイズ その3 作:まりえしーる 発表日: 2005/11/21 11:00

東町のビル建設現場。情報はそれだけだ。手当たり次第チェックしていくしかない。ただ、思うに、今日は作業が休みの現場ってことになるんじゃないだろうか。この当て推量に賭けよう。

ひとつめの現場。クレーンが稼動してる。スキップだ。

あー、なんで俺はまりえを行かせたんだろう。止めるか、いっしょに行くか、すべきだった。知らない相手からのメール呼び出しって聞いた時に悪い予感がしてたんだ。取材なんてウソだと予想できたはずなのに、まりえだからどーでもいーやって気持ちがあったんだろうか。否定できない。そりゃそうだ。だけど、これでもし何かあったら絶対後悔する。

むこうにふたつめの現場。ひとけが無さそうだ。行こう。

それにしても、どーしてあいつは次々とトラブルに巻き込まれるんだろう。ってゆーか、自分からトラブルにクビを突っ込んでいってるのか。入っちゃいけない場所、ってのを嗅ぎ当てる才能でもあるんだろうか。こないだのボウガン野郎だって、まりえの方からコンタクトしたみたいなもんだろ。しっかしなあ、なんでこうも立て続けに。俺が入院してた間もなんかあったんじゃねーの。忙しい女だな。考えてみれば、あいつが俺の部屋に来ることだって災難のひとつなんじゃないか。ずぶ濡れになったり、お父さん倒れたこと聞かされり。今日は何も無かったけど、悪いことばっかあったじゃないか。俺の部屋もあいつにとっては入っちゃいけない場所なんだよ、きっと。 おまけに一年以上も耳鳴りに悩まされてるなんて。あいつ、なんかすっげー不幸な人生送ってるんじゃないか。それなのにさあ、まりえはどうしていつも笑ってはしゃいでいられるんだろうな。あれは演技なのか。ムリしてるのか。

俺はふたつめの現場に到着した。その現場はビル周辺を簡易フェンスとシートで覆ってある。外からは中の様子がまったくわからない。タチが悪い。フェンスに掲げられた工事日程によると今日は休みだ。ヤマシイ目的でこの場所を使おうとしてるヤツに、ご親切に先々のスケジュールを教えてやってるわけだ、この日程表は。まわりはオフィスビルに囲まれている。どこも無人のようだ。休日のこのエリアは都会の廃墟だ。

まりえを呼び出したヤロウは雑誌の取材日に合わせて行動してるのかな。雑誌の取材スケジュールを基準にしてターゲットを選んだり、呼び出す場所を見つけたりしてるんじゃないかな。もしターゲットが雑誌の取材予定を知ってたら、ウソの呼び出しにだまされる可能性がより高くなる、という読みから。うそつきヤロウのハンパなアタマの良さを感じる。少なくとも計画性はありそうだ。

「関係者以外立ち入り禁止」と書いてある現場への出入口を押してみる。簡単に開いた。誰でも入れる状態ってことは、ここだろ。この現場でアタリだろ。俺は中に入った。

シート内にはまず駐車スペースと思われるエリアがあり、様々な工事用機材が置いてある。その先に全体を足場で覆われたビルがある。俺はビルへ駆け込んだ。

ビルは建設中というよりはリニューアル中みたいだ。内壁と外壁を改装してるが、ビルとしてはすでに出来上がっている。中の仕切りカベはすべて取り払われてて、ワンフロアー・ワンルームみたいなカンジ。一階には誰もいなさそうだ。まりえはどこだろう。俺は大声を出してみることにした。

「まりえーっ。どこだーっ」

アタマの上からガタゴトという音が聞こえた。俺はエントランス横の階段を駆け上がった。


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