コナツは恐山のことがアタマから離れないことをいぶかしく思っていた。なんでこんなに気になるのかな。ケータイであちこちのサイトを眺めて恐山のことを調べていると、恐山の開山時期は10月末までだとわかった。それを過ぎると次に入れるのは来年の5月。セトさんの取材は5月だって言ってたな。ずいぶん先だなと思ったけど、こんな事情があったのか。今は他の連載を抱えてるとかで、今年は行けないってことなんだろう。
恐山に入れる期間は、今年は残すところ約2週間ってことか。
そんなことを考えながらコナツはスーパーに食材を買いに行った。タコ。なんでタコを食べる気になったんだっけ。忘れた。タコってどう料理すればいいのかな。サトイモといっしょに煮るんだっけ。それでいいや。ニンジンとインゲンも入れよう。
「小隊長に敬礼!」。スーパーの外で小学生の一団とでくわしたコナツは、このランドセルを背負った兵隊たちの敬礼につきあわされた。「いーからクルマに気をつけてさっさと帰れ、諸君」「らじゃー!」。コドモたちは歓声を上げて走り去る。「今日もおっぱいラッキー」という声が聞こえた。セトさんは霊感はあるのかもしれないけど、母親としての影響力はたいしたことなさそうだ。
部屋に戻ったコナツはさっそく料理を始める。あいつが来る前に作らなきゃ。あいつが到着、即密着、ベッドに直行、夜までセックス、というのがいつものパターンだからなー。料理はおろか食事の時間すら無いってのがあたしたちの関係だ。こんなあたしはヘンタイでしょうか。いーや、フツーそうだよな、きっと、どこの家でもしてるだろフツー。
炊飯器のセットをしてからいよいよ煮物に取り掛かる。味見をしているうちに、だんだん何が求めている味なのかわからなくなってくるから料理はむずかしい。そこへ背の高い少年が入って来た。
「ども」「相変わらずいいタイミングで登場するなあ。ね、味見てくれない?」
少年は差し出されたスプーンを口にする。
「うめえ。和食だー。これ、おいしいです」「ホント?」「すげーな、コナツさん。和食作っちゃうなんて」「よかったー。安心した。マジ自信なくて」「もう夕食ですか」「ううん、これは下ごしらえ。後で加熱して食べよう」
「後で。それは素晴らしい」と言って少年はコナツを抱きしめる。コナツは後ろ手でガスコンロの火を消した。
「恐山。下北半島の」「そう」。数時間後、二人はテーブルを挟んで食事をしている。「タコ食べるの何年ぶりだろ。うめえ。で、アシスタントの仕事は受けるんですか」「それはまだなんとも。ただ、いろいろ気になることがあって」「なんでしょう」
「セトさんに奇妙なこと言われて、あれこれ考えちゃったんだよね。でもどっから話していいのか。漠然としてるし」
その時コナツのケータイが鳴った。ちょっとごめんね。ぴっ。
「あ、おかあさん。え。うそ。そんな」
電話を切ったコナツは呆然としている。少年はただならぬことがあったことを感じたらしく、無言でコナツの隣に来てコナツを抱き寄せる。
「アニキが」「はい」「自殺したって」