結ぼれ 作:まりえしーる 発表日: 2005/10/11 10:00

「アズサさん、アズサさんなの?」

俺はコナツさんのかたちをした女性に話しかけている。セックスしながらこんな会話をすることになろうとは。

「うん。ヒカワくん、ひさしぶりだね」「ひさしぶりって、いったい何やってるんですか」「あはは。どっから話そうか」「どこからでも」

「いやあー、あのときはさあ、もうヒカワくんとセックスしないって決めたんだけど。やっぱガマンできなくなってきちゃって」「なにそれ」「無理な決意はするもんじゃないわねー。そしたらこのコが、ちょうどセックスしたがってたじゃない、キミと。ヒカワくんは知らないだろうけど、あたしとこのコ、ちょっと縁があって」「あ、前にコナツさんから聞いた。アズサさんに助けられたって」「ま、貸しがあるってゆーか。それでちょっと、えへへ、このコのカラダ、借りちゃった」「え」

「あ、でもこのコがヒカワくんと寝たのは、あくまでもこのコの意志で、だよ。あたしはこのコがモーローとしてるときだけ、ちょっとお邪魔してるだけだから」「いったいいつから」「ヒカワくんがこのコと寝た最初の日から。あの日のセックスのうち、何回かはあたしがお相手させていただきました」「え」

そーいえば最初から俺とコナツさんは相性が良すぎるくらい良かった。俺は疲れをまったく感じず、やめることができなくなっちまった。まるでアズサと暮らしていたころみたいに。あのとき気付いてもおかしくなかったのかな。

「あたし、ホントの肉体でセックスしたこと無かったから。だから、生まれ変わる前に一度だけでいいから、ヒカワくんと肉のカラダで、ちゃんとしたセックスをしてみたかったの。こんな気持ち、わかってもらえないかもしれないけど。黙っててごめんね」

「そうだったんだ、って一度だけじゃないでしょー。もー」「あはは。そーだね。ずいぶんしちゃったなあ。やっぱりいいね、セックスは」

はあ。やっぱりアズサさんはアズサさんだ。

とあきれながらも俺は、アズサさんのホントのカラダでセックスしてみたいっていうそのキモチ、よくわかる気がする。てゆーか、痛いほどよくわかる。それは俺自身のかなわぬ夢でもあったんだ。肉体を持ったアズサさん。どうして俺たちはアズサさんが死ぬ前に出会えなかったんだろうって、ずっと思ってた。アズサさんと恋に落ちてからずっと、俺はアズサさんがもう死んでるんだって事実を打ち消したかった。そんなふうに現実から逃げてる俺に、アズサさんはいつも自分がユーレイなんだって事実を思い出させ、それから生きた現実の女性であるエリカさんのところへ、俺を追い出してくれた。そのおかげで俺は今、実世界で生きている。だから俺はそのお返しに、エリカさんとふたりで、アズサさんに2度目の実世界での生活をプレゼントするつもりなんだ。

とまあ、ここまではいい話なんじゃないかなって思うんだけど、まさかアズサさんがコナツさんに憑依しちゃったりするとは。おまけにアズサさんだとわかったとたん、俺の興奮度はとんでもなくアップしちまってる。

「コナツさんはこのことを知ってるの。このハナシはコナツさんに聞こえてるの」「ううん。どっちもノーよ。今このコは眠ってるの。それはそれはたいへん心地よい眠りでございましょう」「そんないい加減なこと言って」「もう一回イッたらこのコと交代するから、ね、続けよーよ」

俺にはわからない。これは、物凄く失礼な行為なのではないだろうか。コナツさんに対して。さらにはアズサさんが認めた俺の婚約者、エリカさんに対して。もちろん俺も最低の男なんだけどさ。でもここまでひとの心を、ん?コナツさんの場合はカラダを、かな、ま、ともかくひとをここまで弄んで許されるのだろうか。俺にはわからない。

「アズサさんがコナツさんを助けたのって、はぁ、もしかして最初から、んっ、後でカラダを借りるため、だったなんてことはないよね」「あはは、そんなことあるわけないでしょ。そこ、いい。あたしにはそんな、先のことまでわかんないよ」

いーや、アズサさんは絶対に最初からそのつもりだった、と俺は思う。

「でもこのコ、すごい胸だよねー。いいなあ。すっごく感じるし。ヒカワくんもしてて楽しいでしょ?」

ほーらやっぱり。アズサさんがひとを助ける、ってのがそもそもおかしいんだ。そこには身勝手な理由があるんだ。俺はコナツさんの胸をむさぼり、コナツさんの蜜に溺れ、アズサさんと同時にコナツさんの中で果てた。この世のものとは思えない快感。これはもはや罪ではないのか。悪魔の所業ではないのか。でもやっぱり俺にはわからない。だって俺は今、まったく怒りとか罪悪感を感じていないから。ホントのことを言えば、俺は今喜んでいるから。やっぱりアズサさんといると楽しい。嬉しい。すっげー幸せを感じる。俺はひとのカタチをしたケダモノか。ケダモノと比較しちゃケダモノに失礼なくらいだ。だって俺はもう回復してセックスを再開しちまってるんだから。

「ねえアズサさん」「なあに」「こんなことしてて、エリカさんにはどう言い訳しよう。やっぱり俺は悪いことしてるんだよ。いっぱい。何回も。言い訳なんてしようがない」「あのコはね、キミがいけないことをしてるときは、いつでも眠ってるんだな、どーゆーわけか」「はぁ?」「だからなーんにも気付かないの。後でたっぷりやさしくしてあげて。それでオッケーってことで」「なにそれ」

このひとはエリカさんまで操っているんだろうか。ということは。

「ま、まさかエリカさんのカラダまで借りてたってことは」「あるわけないでしょ。失礼ね。あのコはキミのお嫁さんなんだよ。夫婦の寝室を覗くなんて、そんな悪趣味なことはしません」「今やってることは悪趣味じゃないんだ」「うん。このコはあたしが助けてあげたコだから」「げ。なんて身勝手な」「そーだね」「サイテー」「人間のクズだね」「鬼畜だよ」「それ以下かもね」

「あははははははははは」

俺たちは笑った。俺たちは最低だ。わかってる。でも俺はアズサさんのものなんだ。アズサさんが楽しいと思ってるときが、俺にとって一番楽しいときなんだ。

いつだって俺はアズサさんとともにある。


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