卒業写真 作:まりえしーる 発表日: 2005/10/12 09:00

その後高校3年に進級し、ようやく18歳になった俺はエリカさんと結婚した。式と披露宴っぽいことは一応やったけど、式は家族だけで済ませ、披露宴は友人たちだけを招いてのパーティーと、ささやかなものだった。俺にとっては、ウェディングドレスというコスチュームの意味を思い知らせてくれたイベントだ。あれは、他人の嫁さんが着てるのを見ても絶対にわからない。あれは、エリカさんが着るためのものだ。それはもう壮絶なまでの美しさだった。

俺たちは広いマンションに引っ越して新婚生活をスタートした。俺はアパートを引き払い、エリカさんも住み慣れたマンションを売却したってわけだ。どちらの部屋にも物凄く大切な思い出がいっぱいあって、ちょっと寂しかったな。両方の部屋で過ごした嵐のような日々は、もう二度と経験することはないだろう。少年時代の終わりは、ホント、激しかった。

結婚して何が変わったかというと、俺たちは合意のもと、避妊をやめた。

エリカさんは日ごと夜ごとに美しさを増し、俺のエリカさん依存症は強まるばかりだ。相変わらずエリカさんはどこかから面白いものを見つけて来る。相変わらずエリカさんは怠惰な俺をどこか楽しい場所にひっぱり出してくれる。相変わらずエリカさんの買う宝くじは当たり続けている。いっしょにいるときの俺たちは相変わらずべたべたくっついている。なのに、相変わらずセックスのムードが漂うと俺たちは気恥ずかしくて固まってしまう。俺たちの基本は、なにも変わってない。

コナツさんは新しい職を見つけ、そろそろお兄さんを自由にさせてあげたいと言ってアパートを出た。新しいマンションでダンナの出所を待つ一人暮らしだ。幸せになってほしいけど、ときどき湿っぽいメールが来るんで心配だ。なにが心配かって、また会いたくなってしまうことに決まってるでしょ。ま、会ってはいるんだけど。なにしろ一人暮らしだし。

ドレッドのひととエメさんは、時々ハデなケンカをしながらも続いている。俺とエリカさんの新婚旅行は予定どおりオークランド、もちろんニュージーランドのオークランドに行ったんだけど、ドレッドのひとは激しく同行したがった。邪魔しちゃだめでしょ、とエメさんが諌めてそれは無くなったけど、いつか4人でもう一度行きたい。シティ・オブ・セイルズはステキな街だった。

カゲミは3年になる前にどこかに行ってしまった。事務所の移動ってやつなんだろうか。ケータイも変えたらしく連絡はまったくとれない。ハンパな態度を取り続けた俺を恨んでいるだろうか。

俺は〇大に推薦で入れることになってしまった。この居眠りチャンピオンの俺が。化学部部長という肩書きに何か効能でもあったのだろうか。世の中一寸先は闇だ。ノジマ先生に感謝すべきなのかもしれない。でも、もしかしたら仕組まれたワナなのかもしれない。

準備は整ったにもかかわらず、アズサさんはなかなか生まれ変わろうとしなかった。気まぐれだからなー。相変わらずイタズラを、それも、人間の尊厳を踏みにじるようなイタズラをその後もいろいろやらかしてくれた。

18になる前に自殺したアズサさんは、ときおり老婆のような知恵を見せたりするけど、やっぱり永遠の17歳なんだ。青春の象徴みたいな。

アズサさんはいつでも俺に、ティーンエイジ・パーヴァーシティ・アンド・シップス・イン・ザ・ナイト、十代の邪悪さと夜の船、というパティ・スミスのフレーズを思い出させる。夜の船っていうのはきっと、俺たちのことだ。ピンと来なかったら、夜の鳥、と言い換えてもいいかもしれない。十代の俺たちはみんな闇夜をやみくもに飛ぶ鳥だった。今もそうかもしれないけど。

俺の高校生活は結局、最初から最後までアズサさんに振り回されっぱなしだった。でも俺はアズサさんのやることはすべて許せる。むしろ積極的に許したい。いや、お願いですから許させてください。だって俺はいつでもアズサさんとともにあるからだ。

今、手元に卒業アルバムに載った俺のクラスの集合写真がある。最後列に立つ俺をよく見ると、両肩に置かれた女性の手がはっきり写っている。アズサさん、やりすぎだって。当然のことながらガッコではけっこうな騒ぎになった。でも俺にとっては大切な思い出の写真だ。だってユーレイだった頃のアズサさんの写真を、俺は一枚も持っていなかったんだから。




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