デジャヴ 作:まりえしーる 発表日: 2005/10/07 09:00

「ヒカワくん、今日からナマでいいよ。フィニッシュも中で、ね」「え。そんな」「えへへ。実はね」

なんとコナツさんはピル、すなわち経口避妊薬を産婦人科で処方してもらって飲んでるんだそうだ。コナツさんの初体験の日、俺たちはホテルにあった避妊具を使い切ってしまった。にも関わらず、その後2発も危険な行為をやっちまった。軽率だったな。なにしろお互いアタマに血が昇ってたもんで。既婚者であるコナツさんはそれを反省して、今後の対策のために医者に行ったってわけだ。

ピルは一日一錠、毎日飲み続ければオッケーなんだそうだ。でも毎日続けるってのはめんどうかも。うっかり飲み忘れそうな気もする。「飲むの忘れてて、もしセックスしちゃったら?」「事後処理用のピルってやつをネット通販で買ってあるんだ。いたした後で、いけね、飲み忘れてた!って時はそっちを飲むの。モーニングアフターピルっていうんだ」

周到な準備だ。「避妊パッチってのもあって、それは一週間貼りっぱなしでいけるっていうんだけど、あたしは、ちょっとね。肌がカブレそうだし。なんと言っても、おなかにパッチ貼ったとこをヒカワくんに見せる勇気がないよ。かっこわるくて嫌われちゃいそうで」「それはありえない。コナツさんはなにやってもすっげー魅力的だって」「よくゆーよ。初めて話したときは、あたしのことカエルでも見るよーな目で見てたくせに」「え。あー俺がヒール折っちゃったとき。そー見えた?キンチョーしてたんだ、たぶん。コナツさんも今と違って、なんつーか、思いつめたような堅さがあったし」

「あたしも、か。そーかもしれないなー、あの頃は。あの日はスーツ着て慣れないヒール履いてたな。ね、あたしが転んだとき、パンツ見えた?」「え。さあ、どーだったっけ」「見たな」「見ました。ごめんなさい。白でした」「まさかあのときの男の子と、週に三回もパンツ見られたり脱がされたりする関係になろうとは」「めちゃくちゃ人聞き悪い」

コナツさんが果てそうなんでいったん会話は中断。ふう。

「で、避妊パッチってバンソーコーのでかいヤツ、みたいなもんかな」「そう。オバサンっぽく見えるよ、きっと」「バンソーコーかあ。あーカンケー無いけど、もし脱がしたときにコナツさんがニプレスしてたら、俺は発狂するくらいコーフンするかも」「へえ。そーなんだ。なんでだろ。男のひとって面白いね。今度試してみよっか」「あ。考えただけで俺ガマンできなくなっちゃった」「そのまま中で、あ」

その日俺はピルのありがたみを思い知らされた。避妊のわずらわしさから解放されたセックスはなんて楽しいんだろう。俺はオリを破った野獣と化してコナツさんを蹂躙しまくった。

俺と婚約者のエリカさんは避妊には気を使っている。なぜかっていうと、俺は来年、現役高校生という若さで結婚する。そのとき世間は俺たちをどう見るか。ま、だいたいわかる。それを裏切ってやりたい。俺たちは不慮の事態が理由で結婚するんじゃない、自分たちの意志で結婚するんだ、ってことを示したい。それだけ。17才であるってことは、いろいろハンディキャップになるわけですよ。まあそんなわけで俺とエリカさんは慎重に避妊してるんだけど、今までピルってのは考えたこともなかった。こんなに素晴らしいものだったとは。副作用とか心配だけど。でも、いい。これはいい。

こんな無責任極まりない自由奔放なセックスに明け暮れた日々が、かつてあったことを思い出す。避妊のことなど一切考えずにやりまくっていた、あの頃。そう、アズサさんと暮らしていた日々がそうだった。アズサさんのことがアタマに浮かんでくる。なんだかアズサさんとしてるみたいだ。

「上にどーぞ」と言って俺の上からコナツさんが滑り降りる。俺はおやっと思う。デジャヴ、既視感だ。どっかで今のシーンを見た気がする。今のコナツさんのセリフ、カラダの動き、俺は記憶の海を探索しようとするが、水面に映るふたつの満月90のGが邪魔をする。俺はコナツさんの上に乗る。足の間に沈もうとしたとき、コナツさんの目がいたずらっぽく光るのを、俺は見た。え。

え。まさか。と思いながら俺はコナツさんの中に入っていく。え。そんな。そんなのって。

「あれ、見つかっちゃった?」。コナツさんのカタチをしたひとが笑った。


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