夕闇が迫るなか髪の長い女は、あるビルの屋上の手すりに腰掛け、地上を見下ろしていた。髪が風になびく。退屈しているらしく両足をぶらぶらさせている。すると女の視線の先にあるハンバーガーショップから高校生の男女二人組が出てきた。

髪の長い女が見つめる中、二人組は交差点で別れる。少年のほうは数歩進んでから立ち止まり、別れた少女を振り返る。その様子を見た髪の長い女は眉を曇らせ、去っていく少女の方へと空中を移動する。

地上の少女がスキップを始めるのを見て、髪の長い女は鼻を鳴らす。女は少年の様子を確認する。彼は少女を見続けている。まだだ。彼の視界からはずれなくては。

女は少女に視線を戻す。その時少女が派手に転倒する。女は唖然とし、少年の方を再び見る。少年は呆れ顔を見せた後、ターンして去っていく。

心配するような素振りも見せない少年の様子を見て、髪の長い女は微笑む。そして彼の方へと雲のように流れていく。

髪の長い女が振り返って少女を見ることは、もう無かった。