小道具とその効果 作:まりえしーる 発表日: 2005/08/25 12:30

「シヅエさんが怒ってる。家庭崩壊のピンチだ」「シヅエさんって誰ですか」「俺の奥ちゃんだ」「あー昨日電話でしゃべってましたね。お子さんが熱出してどーたら、とか」「そーだ。あの電話の後に俺がイマリちゃん連れて病院行ってた間行われたお前たちの不純異性交遊のおかげで俺は窮地に追い込まれてるんだ」「はぁ?」

「とぼけるな。いや、とぼけてもいーや。俺には全部わかってる。どーこー言うつもりもない。お前たちも立派なコーコーセーでコドモじゃないんだから」「なにをわかってるって言ってるんでしょーか」「俺んちのベッドに長い髪が落ちてた。シヅエさんはショートなんだよ。わかるか」「え」「でもってマクラの下のヒニングが無くなってた」「ヒニングってオランダ人ですか」「ムードンコだよ、ゴム」「あ、コンドームか」「ガッコではっきり発音するな」「ぼかしたほうがヒワイですって」

「セイフセックスを心がけるのはいいことだ。でもなんで俺んちのベッドでするんだよ。シヅエさんはシーツの上の長い髪を見つけてキレちゃった。シヅエさんはヒニングの数もチェックしてるから、俺が誰かを家に連れ込んで浮気したと思ってる」「あー。ツジツマあってるわ、それは」

「ばかやろ。どーしよー、まさか教え子同士がセックスする場所を提供しましたなんて言い訳はできないし」「そもそも俺はやってませんって」「そーしておこう。そう言い張ってくれ。俺は知ってるけどな」「だからやってないって」「じゃ何があったのか言ってくれ。言い訳のネタに採用するかもしれない」

「センセを待ってる間、俺たちはベッドで横になってました。長い髪は俺のだと思います。コンドームのことは知りません。おしまい」「ああ、やっぱり教え子ふたりが俺の留守中に俺のベッドで俺のコンドームを使ってセックスしてたのか。くそっ、この居眠りしかできない男が、ヒャ、ヒャクデンパタを好きホーダイに」「だからやってませんって。センセ、ヒャクデンパタさんが好みだったんだ」「んなこたあない。俺は教え子をそんな目で見てないぞ。ジョージ・ド・ヘヴェシーに誓って、絶対ない」「誰ですか、それ」「ハフニウムを発見した偉い化学者だ」

「知るかよ、そんなひと。じゃーこーしたらどーです。昨日俺ひとりが呼ばれて器材取りに行って、ひとりでベッドに寝てて、たまたま見つけたコンドームを興味本位で持ち帰った、と」「おお、有望な解だ。そのコンドームを俺が取り返してきた、ほらこれだよってことにできればさらに優秀かな」「同じモン買えば」「現行商品はデザインが変更されてる」「そんな古いモン使ってるんですかあ」「あれはな、実験用の器材として以前大量に買ったヤツなんだ。授業で使おうと思ってたら、ガッコでヒニングとはなにごとか、と校長に怒られてボツになった幻の化学実験だ。もったいないアイディアだったなー、あれは。で、プライベートで使ってるんだ。そんなことはともかく、あのマクラの下のコンドーム、どこいったのかな」「あー実はヒャクデンパタさんが」「彼女が持って帰ったのか。なんだと、だ、誰と使うんだ。なんてこった」「センセ、落ち着いて」「そーか、あの短時間でできるはずないもんな。じゃあこの続きは放課後に、ってお前たちもう使ったのか」「使ってない、っつーかやってません」「じゃ、まだヒャクデンパタが持ってるのか」

「しゃーねーな、もー。ぴぴっ。もしもしヒカワだけど。ヒャクデンパタさん昨日のコンドームまだ持ってる?いや、別にセックス誘ってるわけじゃないけど。あれ、なんか貴重品らしいよ。え。なにそれ。なんだそりゃ。まじかよ。はあー。わかった。じゃな」

「どーした」「いや、あのバカ、昨日帰ってからアレを家族に見つけられて」「説教されたのか」「大喜びされて、赤飯炊かれて、アレは額に入れられて事務所の壁に飾ってあるって」

「なんだそりゃ」「センセ、家庭訪問でもする?」「え。なんか首突っ込みたくない環境みたいだな。いーや、ヒカワ、お前がひとりで使ったってことにしとこう」「はぁ?」「思春期だ、いろんなことするさ、男の子は。じゃ今からシヅエさんに釈明に行こっか」「お、俺が行くんですか」「晩飯ごちそうするから。シヅエさんの料理はうまいぞー」

確かに料理はおいしかった。でも俺が一番驚いたのは、ノジマ先生の奥さんが美人で常識あるちゃんとしたひとだった、ということだ。この世界ではいろんなことが起こる。


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