触らぬ神 作:まりえしーる 発表日: 2005/08/19 14:00

「センパイがここに入学してきた頃、3年にカイエってひとがいて、フェロモン系美人だったらしいんだけど、ヴィジュアル優秀な男は全部食う、それ以外でもドーテーなら全部食う、みたいな寝まくり女だったって」「食通じゃないんだ」「ビョーキなんだろな。で、そのひとがセンパイに目をつけた。センパイは今ほど背が高くなかったらしいけど、あの顔だ。当然だな」「そーゆーもんか」「そりゃそーだろ。で、カイエはセンパイにつきまとって、へばりついて、部屋まで押しかけてと、フルパワーで仕掛けたんだと」「ふーん。でリーダーはどーしたんだ」

「無反応。あんたも知ってるだろ。センパイの、そこらの女じゃ何も感じねーって態度。手を取ってムネ触らせても『わり。麻雀の約束あっからそこどいて』みたいな」「あーなんかわかるな」「で、カイエはプライドズタズタでキレた、らしい」「らしい、だな。全部」「しょーがねーだろ。あたしら入学する前で、ウワサで聞いただけだもん。じゃもうやめっか」「わり。続き頼む。チキンフィレあげるから」「同じモン何個持ってんの?でもオチはねーんだ」「なんだそりゃ」「突然カイエがガッコやめて引越して終わり」「なんでやめたんだろ」「謎、だってよ」「リーダーは関わってるのか」「関係ない、らしい。ま、それが最初でさ」「まだあるんだ」

「センパイはモテる。ボスキャラのカイエが消えたんで、他の女子がおおっぴらにセンパイにコビはじめる。上級生の男で、あいつムカつくって連中が出てくることになる」「目立てばそーなるな」「こっちもオチはないんだ」「地味なストーリーだな」「うん。センパイと関係ないところで死人、病人、ケガ人、行方不明者が出てエンディングだ。セールで在庫まとめてクリアランス、みたいな。みんな消えた」「リーダーはなにもしてないのかな」「まったくなにも。だからさ、おかしなことになった連中とセンパイを結びつけて考えてるやつはほとんどいないはずだ。センパイとトラブルになる前に、あぶねえやつらが勝手に消えてくんだからな。影でウワサしてるやつは、少しだけいるけど」「事件はそれで全部?」「その後も間をおいてセンパイに迫る女、センパイに敵対する男ってのが出てくるんだけど、展開は全部同じだったらしい。あたしが入学してからもあった。最近だってあった。先月だったかセンパイの同級生が退学したんだぜ。その女も、やっぱセンパイの部屋に押しかけたりしてたって」

「あんたらトリオは、被害にあってないのか」「あたしらはただのファンだよ。フツーにセンパイとつきあってる分には何も起こらない。でも、超えちゃいけない一線があるみたいだ。臨界点突破!ってやつらは消される。消されるってカンジがするんだ。触らぬ神に。だからこの前あんたとモメたとき、センパイが出てきたのにはびびった。消されるのかって思った」「でも何もなかったんだ」

「うん。今んとこ無事だ。で、思うんだけど、なんか事情が変わってきてるのかも」「どんな」「背の高い女がセンパイにくっついてるのを見た。なんかセンパイ楽しそうで驚いた。女、キライじゃないじゃん。好きなんじゃんって思って。あと、あんただ。あんたも悲劇に襲われてなさそーだし」「ああ、健在だ」「なんだそのフレーズ。ともかく、触らぬ神は、現在気分がなごんでらっしゃるのか、旅行中なのか、もうセンパイに取り憑いていないのか。わかんねーけど、今は効力が無いんじゃないかって気がする」「オカルトみてーなこといろいろ考えてるんだな」

「こんな話、ホントはしたくなかった。おっかねーから。あたしら3人があっちこっちで聞いたウワサ持ち寄ってときどき話してるだけなんだ。それをあんたに話してるのは、触らぬ神が今は夏季休業中ってカンジがしてるからだよ。センパイとしょっちゅーいっしょにいるあんたが無事なら、ウワサするくらいなんでもねーだろって、さ」

ふーん。そんな歴史があったのか。触らぬ神、ねえ。

「もう少し様子を見る。で、ホントに問題ないとなったら、あたしはあんたを蹴落としてセンパイの彼女になる」「そっか。でもやめといたほうがいーよ」「あんたにあたしは勝てないってか」「そーじゃねーんだ。あたしはリーダーの女になる気はないし。リーダーのことは、あの男のことは、多分忘れたほうがいい。そう思うだけだ。あんたがなにやろーとあんたの勝手だけど」「なにか知ってるな。そっちも話せよ」「リーダーには好きなひとがいる。強力だ。永久不滅のカップルって気がする。アルファカップルに手を出すなんて考えないほうがいい。たぶん触らぬ神は、今そこにいる。そっか、それが触らぬ神か」「なにひとりで納得してんだよ。中身もヘンなのか、あんたのアタマは」

もしもお前たちがリーダーたちに何かしようとするならば、あたしはお前たちを事前に殺す。リーダーの知らないところで、ひっそりと。触らぬ神?そんな超自然現象みたいなもん、あるわきゃないだろ。今このときから、触らぬ神とは肉体を持って地上に生きるこのあたしのことだ。とりあえず、お前たちトリオを恐怖でコントロールしてやる。くだらないウワサを二度としゃべったりしないように。

カゲミはポケットに手を入れ、金属の冷たさを確認した。


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