張り込み 作:まりえしーる 発表日: 2005/07/15 10:00


徹夜明けの朝、カゲミはあるマンションのエントランスが見える場所に止めた車の中にいた。ケータイの番号教えて契約者の住所が返ってくるのに3日もかかるのか。昔は一日で十分だったのにな。個人情報保護法ってのはたいしたもんだ。ケータイ会社の内部規律が3倍も厳しくなったんだから。

このマンションにはサイトーマリエという保険外交員が住んでいる。別にサイトーさんが殺人鬼だと決め付けてるわけじゃないけど、ほかにアテが無いんでね、今んところ。

若いOLがマンションから出てくる。いい女だ。スキもなさそうだ。ひとつのマンションに美人はひとりかゼロだろ、せいぜい。こいつで決まりだ。カゲミは女の顔をアタマに焼き付ける。気の強そうな眉。大きな目。口元にホクロ。でも念のため。カゲミはケータイをかける。

マンション前を歩く女がバッグからケータイを取り出すのが見える。「はい」という澄んだ声がカゲミの耳元でささやく。「おねーちゃん、おそいぃー。もーシンカンセン出ちゃうよー」「どちらにおかけですか」「あっ、ごめんなさーい」とカゲミは通話を終える。マンション前の女はケータイを睨んでからバッグに押し込む。

間違いない。この女がサイトーさんだ。どうしようか。今刺しちゃおうかな。でも殺しちゃったらこの女が殺人鬼かどうかわからなくなるか。ま、今朝ひとり刺してきたし、徹夜明けだし、今日のところは帰って寝るか。あーあ、また社長にフロ入れって怒られるんだろうな。やだなーフロ。

カゲミは自分のカラダのあちこちをくんくん嗅いでみる。そして笑顔で車のエンジンをかける。大丈夫、フロは来週にしよう。


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