命令 作:まりえしーる 発表日: 2005/07/14 13:00


「だから絶対おかしいですよ、ボス。ヤスイが空き巣に入ったヤサで女装して首絞めながらマスかいて死んじまうなんて。それじゃまるでヘンタイだ」

「確かに妙な話だ」。ボスと呼ばれた男は新聞記事を読みながら答える。「だがよコムラ、まず俺をボスって呼ぶな。それから、ヤスイはホントにヘンタイじゃなかったのか?」「ああ、ヤツは、ヘンタイでした。でもジャンルが違う。女装の趣味なんてのは無かったかと」「あったかもしれんぞ」「無い、とは言い切れませんが。でもこんな死に方ってのは納得できません。現場に吸殻って書いてあるが、ヤスイはタバコ吸わないし」

「こりゃ酸欠オナニーってやつか。忍び込んだ家でヤスイがやるはずがねえって気はするな」

ボスと呼ばれた男は考える。そういえばこないだ似たような話を聞いたな。そうだ、ハズキってホステスの弟が死んだ話だ。壁をつたって女子更衣室に窓から入って下着盗んで転落して死んだってマンガ以下のバカなハナシ。新聞やテレビの報道にむかついてたな、あいつ。あの子に限ってそんなことありえねーって。どっちの事件も誰かにハメられたってニオイがしないでもない。両方とも実は殺しで、誰かが事故に見せかけてるんじゃないか。どっちの事故も「はぁ?」って感じさせるところが似ている。

「おい、カゲミが奥で寝てるから起こして来い」「え。2日徹夜してさっき寝たばっかじゃないんですか」「あいつは大丈夫だ。起こして来い」

コムラと呼ばれた男に連れられて、若い女がやってくる。いかにも寝起きという目。髪はぐしゃぐしゃだ。「ども。誰を刺せばいいんでしょうか」

「カゲミ、調べてほしいことがある」。ボスと呼ばれる男は新聞を女に手渡す。女はその記事を半開きの目で読む。「それとな、こないだあった下着ドロボウ転落死ってのも関係あるかもしれねえんだ。アタマに入れといてくれ」

「女ですね。ヤスイさんは女に殺されたんだ」。記事を読み終えた女が言う。「女?」「この演出は女の発想です。空き巣に入ったヤサで偶然出くわした面識の無い女にやられた。その女は世間の男全部を憎んでるんじゃないですかね。そんな気がします。こいつ、もし見つけたらどうしますか。刺していいんですか」

「いや、まずはどんなやつだか知りてえ。俺が値踏みをしてから、お前にまかせることになるかもしれんが。探せるかな」「かなり時間がかかるかと」「やってみてくれ」

女は無言で部屋を出て行った。

女か。たしかに男だったらこんなカモフラージュはしないような気もする。「ボス、カゲミ使っていいんですか。もし見つけたら、きっとその場で殺しちゃいますよ」「大丈夫だ。あいつは俺の命令だけは絶対守る。それから、俺をボスって呼ぶな」「カゲミは殺しますって」「そうかな。そんな気がしてきた。お前、あいつおっかけて殺すなって念おしとけ」「はい。おーい、カゲミー」

どんなやつが仕組んだのか。知りたい。やっぱカゲミにまかせたのはまずかったかも。


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