少女時代の終わり 作:まりえしーる 発表日: 2005/06/14(Tue) 09:04


まりえは深夜に知り合いに紹介された祈祷師から電話を受けた。

「なんという事に関わらせてくれたんだ、あんたは。決して手を出しちゃいけない相手に歯向かってしまったんだぞ、わたしもあんたも。わたしは街を出る。あんたも今夜のうちに街を出ろ。悪いことは言わん。早く逃げろ。出来るだけ遠くに逃げるんだ。そしてあのお方のことは誰にも話してはならん」
「な、なんでよ」
「もう時間が無い。わたしはもう行かなきゃならん。う…、きっ、鬼童!」

電話はそこで切れた。

キドウ?キドウってなんだろ。ばあさんは何を焦ってるんだ。しくじったのかな。評判の霊能者だって聞いたから頼んだのに、キャリアの浅い若い女ユーレイいっぴき退治できないなんて。頼んで損した。がっかり。

手付けで渡した200万はどうなるんだろう。あれだけ盗むのはけっこう苦労したのにな。

まりえは歯を磨こうとして洗面所に入った。逃げろってどういうことだろう。ばあさんが負けたときのことなんて考えてなかったしな。鏡を見ると、そこに映っているのが自分の顔では無いことに気付く。あの幽霊女の美しい顔だ。突然鏡から手が飛び出してきて、まりえの顔を口を塞ぐ形でつかむ。

「あたしをいくら憎んでもかまわない。どんなにあたしを恨もうと何をしようとかまわなかった。でもヒカワくんを巻き込んだのはまずかったわね。彼を誘拐させたのは間違いよ。あんな薄汚い祈祷師にヒカワくんをさらわせるなんて。許さない。でも、まりえちゃんとは知らない仲じゃないし、今回は命は取らないでおいてあげる。明日街を出なさい。明日中にこの街を出て、二度と帰って来てはいけない。二度とヒカワくんに近づいてはいけない。あたしたちのことを誰にも話してはいけない。これを破ったとき、あなたの人生は終わる。わかったわね」

「え…」

「あなたが約束を破り、あたしがあなたを殺すときは、必ずあなたの前に立って、目を見ながら殺してあげる。後ろから襲うようなことはしないから安心してね」

鏡から伸びた手は、まりえの顔を離した。鏡に映っているのは、まりえ自身の顔だ。顔には幽霊の手形が真っ赤に残っている。ヒザの震えは止めようが無い。

「そのアザは数分で消えるわ。ただしあなたがヒカワくんに近づこうとすると、また赤く浮かび上がってくる。今後もしそのアザが現れたら、すぐにその場所から逃げなさい。逃げればそこで死ななくてすむわ」

まりえは天井からそんな声を聞いた。

「あ、あなたの目的はなんなの?あなたはこの世で何をしようとしてるの?あなたはヒカワくんをどこに連れてくつもりなの?」。まりえは天井に叫んだ。返事はなかった。

今すぐここで死んでしまいたい。いや、死にたくない。まりえは自分がどこに立っているのかわからなくなっていた。


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