青春の陰 作:まりえしーる 発表日: 2005/06/09(Thu) 15:53


コンビニのトイレから出たまりえはレジの店員からバッグを渡された。「あれ?友達に預けといたのに」「さっき女のひとと帰りましたよ」「女?ゆ、ユーレイみたいなひと?」「はぁ?そこの大学の体育会みたいなひとだったかな」

なんだと。ふざけるな、ヒカワ。ひとをコケにするのもいいかげんにしろ。

まりえは湧き上がる怒りの中で新しい自分が生まれてくるのを感じていた。もう気のいいバカの演技するのは終わりだ。ゲットアップ、まりえ。頭の中でスクービー・ドゥーが倍速で鳴り始める。憧れに手を振ろうぜ。2番目はもうやめだ。

まりえは親指のツメを強く噛んだ。あの野郎、ひとの気も知らないで、じゃなかった、ひとの気持ちを知ってるくせに。幽霊女ならまだしも、どっかの女子大生と、かよ。あたしを置き去りにして年上のねーちゃんとバイバイかよ。なめるな。いつもカエルでも見るような目で女を見下しやがって。そのくせ気に入った女にだけはいい顔しやがって。男なんてみんなクズだ。後悔させてやる。

そもそも諸悪の根源はあの幽霊女だ。追い出してやる。あいつをこの世から追い出してやる。あの幽霊女はなんでも持ってるクセに、みんな持っていってしまう。すごい美人で髪がきれいでスタイルが良くてオトナで体重がダウンみたいに軽くて他人の部屋に自由に出入りできて、その上ヒカワくんまで持っていってしまう。あいつがいるからヒカワくんはあたしに胸があるってことにすら気付かない。もっとイヤなのは、あの幽霊女のマネをしたがってる自分だ。ホントはああなりたがってる自分だ。情けない。こんな気持ちにさせたあの幽霊女が許せない。絶対に許せない。

他人の家に忍び込むことで、物凄く興奮してしまうあたし。誰にも言えない秘密。もうやめられそうもない。そんな自分にしたのは、あの幽霊女だ。あいつの壁抜けを見たせいだ。あいつがヒカワくんの部屋に好き勝手に出入りするのがいけないんだ。あの女をこの世から消してやる。あの世に帰してやる。

まりえはコンビニ店頭のゴミ箱を蹴とばし、あたしの「まりえ」っていうひらがなの名前がそもそもユルイ、これだからナメられる、名前を変えてエッジのある女になってやる、と思った。そのとき急に空腹感を覚えたまりえは、店の中に戻りメイプル玄米ブランを買った。おなかに良さそうだし。ブランを食べながらアジサイが満開の道を歩く。これ、おいしい。エッジ女になるのは、まあ来週からでもいいか。


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