その会社はルーズな社風だったので部署のメンバー全員が庶務のミカミさんに認印を預けて書類にハンコを押してもらっていた。ある日オオヤギさんの認印の木の字が欠けた。オオヤギさんは倒れて入院した。ミカミさんはオオヤギさんの認印を買い換えた。オオヤギさんは回復して退院した。ある日オオヤギさんの認印が行方不明になった。オオヤギさんはその日から無断欠勤を続けた。ミカミさんはオオヤギさんの認印を買い直した。オオヤギさんは申し訳無さそうな顔で会社に復帰した。ある日ミカミさんがこぼしたコーヒーがオオヤギさんの認印を濡らした。オオヤギさんは突然の雷雨でびしょ濡れになって外回りから帰ってきた。
ある日ミカミさんはオオヤギさんの認印をカッターで削りカップのコーヒーにしばらく沈めておいた後ゴミ焼却炉に投げ込んだ。
その夜オオヤギさんは何者かに襲われ出刃包丁で刺された後、水を満載した散水車のタンクに投げ込まれた。翌日その散水車は首都高で玉突き事故に巻き込まれてトンネル内で炎上した。
オオヤギさんの葬儀に参列したミカミさんは、泣き崩れるオオヤギさんの奥さんのそばに寄って認印をそっと奥さんの背中に押し、そして喪服のまま産婦人科に行って中絶手術を受けた。