ホワイトノイズ、ピンクノイズ その1 作:まりえしーる 発表日: 2005/11/18 11:00

その休日の朝、俺たちは部屋でだらだらしてた。とゆーのは目覚めたときに隣で寝てるアズサさんになんとなく手が伸びて、なぜかアズサさんの手も伸びてきて、お互い相手にあれこれしてたら結局セックスが始まっちゃたからだ。寝る前にいっぱいしたってゆーのに、どーして俺は。あーだるい。でも、よかった。

満足そうな顔をしているアズサさんを俺はぼーっと見ていた。見飽きることがない。「アズサさんって、絵にも描けない美しさだよね」。俺は脳ミソが腐ってるんじゃないかってくらい陳腐なセリフをしゃべっている。

「そもそもヒカワくんって、絵、描けるのかな」「何言ってんの。俺はガッコで美術を選択したほどの男ですよ」「じゃあさあ、何にも見ないでサイの絵、描ける?」「サイ?ショーギの強いひと?」「それはマンガだし、しかも強いのはショーギじゃないし、さらにひとじゃないし。あたしが言ってるのはドーブツのサ、イ」

そんなことから俺たちはベッドを這い出し、紙とペンを用意して二人で落書きを始めた。

「なにそれ。熱が出たときに見るイヤーな夢みたい」「アズサさんのソレだって宇宙征服をたくらんでるネズミみたいですよ」

俺たちはお互いの絵心の無さを笑いあった。すっげー楽しい。一生こうしていたい。でもいーかげん洗濯とか始めなきゃいかんなと思ってたとき、来客を告げるチャイムが鳴った。

「まりえちゃんが来たよ」「え。なんでわかるの」「音で」「はぁ?」

俺は首をかしげながら玄関を開けに行く。やべっ。またロックをしてなかったよ。カギのかけ忘れを反省しながらドアを開けると、まりえがいた。

「おはよ」「もうこんにちは、の時間だよ。寝てた?起こしちゃった?」「ま、入れよ」「お邪魔しまーす」

アズサさんはまだ宇宙ネズミの絵を描いている。まりえはアズサさんがいるのを知っていたかのように見える。「これ、おみやげだよ」と、まりえは高級そうなリンゴが詰まったビニール袋をくれたんだ。入院中のお父さんのとこへ届いたお見舞いだろうけどな。でもリンゴはありがたい。

「サンキュ。で、なに」。俺はアズサさんの隣に密着して座り、まりえが座るスペースを作った。

「パパが今朝退院したの」「わー。よかったな。おめでとう」

快気祝いをしなきゃ、と俺は考える。まりえのお父さんは、こないだ俺に血をくれた恩人だからな。血をもらった俺のほうが先に退院しちゃったんだから人生は不公平だ。

そんなことを考えながらも俺は、視界のスミでますます邪悪さを増していくアズサさんの宇宙ネズミが気になってしょうがない。お願いです、今爆笑させてください。

「それでえ、これからウチで軽ーくあっさりとお祝いの食事をするんだけど、ヒカワくん、来てくれない?」「え。俺が」「うん。いろいろあったからさ、みんなでパっとやって、厄払いってゆーか」「家族ダンランの場所に。いーのかな」「いーよ」

お父さんにお礼を言ういい機会だ。つーか、呼ばれる前にこっちから行くべきなんだよな、ホントは。でもちょっと気が引ける。

「わざわざ迎えに来たのか」「うん。ヒカワくん、ケータイ壊されてそのまんまじゃん。あたしは買いなおしたけどー。だからここに来るしかないでしょ」

そりゃそーだ。

「行ってきなさい」。アズサさんが俺に顔を向けて言った。ペンは動き続けている。「お世話になったんだし、ね」。アズサさんにそんなことを言われるとは。

「あ、あのお、よろしかったらあ、いっしょに、いらっしゃいませんか」。驚いたことにまりえがアズサさんに声をかけた。勇気を振り絞っているのが伝わってくる。

「あたしは遠慮しとくわ。ふふふ、ユーレイだしね。ヒカワくんだけ連れて行って。でもセックスの時間までには帰してね」

アズサさんは無邪気に答え、まりえは赤くなる。俺には言うべき言葉が無い。まりえにはどうせ一度アズサさんとのセックスを見られてるんだ。今さら気にするようなことじゃない。なんかいろんなことがハッキリしてて、俺たち3人はけっこういいカンジになれる、かも。

よし。行くことに決めた。

まりえを外に出して着替える。お祝いの品、どーしよう。途中でなんか買おう。たいしたもの買えないけど。

「じゃあアズサさん、ちょっと行ってくる」「行ってらっしゃい」

俺はサイフを持つのを忘れたことに後で気付くんだが、出かける前にアズサさんにキスすることは忘れなかった。


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