ひとりぐらし 作:まりえしーる 発表日: 2005/05/07(Sat) 08:52


あれこれ悩んだ末に補欠で受かった大学に入ることを決めたため、部屋探しのスタートに出遅れてしまった。父親の会社は業績不振だ。あまり負担をかけたくない。なるべく安い部屋にしたいがまだ残ってるだろうか。などと焦ってみたものの、最初に入った不動産屋で風呂無しトイレ共同なんて物件をあっさり紹介されて拍子抜けした。日本全国不景気で学生への仕送り額は減少してるそうだが、さすがにこんな条件の部屋に我が子を押し込む親も、そんなとこに住むことを承諾する子供もそうそういないってことかもしれない。

僕も「いい子」になりすぎだったかも。引っ越したその日のうちに、風呂とトイレがあってこその一人暮らしだよなー、などと独り言をつぶやいてしまった。部屋がさみしい。一人暮らしってこんなもんなんだろうか。
近所にリサイクルショップを見つけてフラフラと中に入り、必要も無い中古のブラックライトなんてシロモノを購入してしまったのは、さみしさの成せるワザだったのだろうか。

釘穴だらけの柱にライトをビスで固定して天井灯をオフ。さあスイッチオン。おおーブラックライトだ。鏡に映った自分の歯が青白く輝く。でもそれだけだ。なんでオレこんなもの買ったんだろ。

ちょっとだけ楽しかった気分も急速に醒め、あくびをしながら畳の上に寝そべったとき妙なことに気が付いた。ドアに縦ジマの模様がある。壁にも。今までこんなもの無かったはずだ。あわてて天井灯をつける。縦ジマは消える。天井灯を消しブラックライトの光のみにする。たくさんの縦ジマが現れる。

なんだこりゃ。僕は壁に顔を近づけ検証を開始した。指で壁の表面をさすってみると、縦ジマはわずかにへこんでいるようだ。深さと幅は一本ずつ違うのだが、眺めているうちにパターンがあることに気付く。深さも幅も違う線が10種類あり、5本ずつがひとつのグループとなって何度も登場するようだ。つまりグループは2つ。

古いアパートなので柱と土壁の間に隙間ができている。その細い隙間に何かが挟まっていた。コンビニでもらった割り箸に付いてた楊枝を使って、その何かを、ブラックライトを浴びて輝く貝殻のようなものをほじくり出してみた。

僕は親に電話して「今から帰る」と告げ駅に向かった。親は情けない息子だと思うだろうか。でもわかってくれるんじゃないかな。

根元からはがれて、乾いた血のついた人間のツメが、短時間のうちに4つも見つかった部屋だ。もっと凄いものが潜んでいるに違いない。ひとが住める場所じゃない。お父さん、そう思いませんか。


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