月までぶっ飛ばして 4 作:まりえしーる 発表日: 2006/01/05 16:00

やわらかな日差しの中、あたしはプールサイドを歩いていた。風がワンピースのすそを揺らす。プールの中からちょっとかっこいい男の子があたしに手を振る。澄んだ水が気持ち良さそうだ。あーあ、あたしったらなんで水着を持ってこなかったんだろう。

服のまま飛び込んじゃおうかな。いいよね、別に。

そのとき「こっちに来なさい!」という声が聞こえてきた。ムードぶち壊しなオッサンヴォイス。

振り向くとトレンチコートを着た中年男が叫んでいる。あたしを呼んでるの?うるさいなあ。

「落ち着きなさい!ゆっくりでいいから、こっちに来なさい!」

「あのさあ」とあたしは答える。「ほっといてくれないかな。それにぃ、プールサイドでそんなカッコしてると盗撮ヤロウみたいだよ。帰れば」

「キミの言ってることはおおむね正しい。ただひとつ、ここはプールじゃなくて、手すりの無いビルの屋上だってことを除いては」

え?あたしはプールに視線を戻す。かっこいい男の子は「ちっ」と舌打ちし、大きく息を吸ってから水に潜った。

「あ、待ってよ」

あたしはあわてて頭からダイブした。子供のころから水泳は得意なんだ。すぐに追いついてやる。

でも水の音はいつまでも聞こえてこなかった。


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