やわらかな日差しの中、あたしはプールサイドを歩いていた。風がワンピースのすそを揺らす。プールの中からちょっとかっこいい男の子があたしに手を振る。澄んだ水が気持ち良さそうだ。あーあ、あたしったらなんで水着を持ってこなかったんだろう。
服のまま飛び込んじゃおうかな。いいよね、別に。
そのとき「こっちに来なさい!」という声が聞こえてきた。ムードぶち壊しなオッサンヴォイス。
振り向くとトレンチコートを着た中年男が叫んでいる。あたしを呼んでるの?うるさいなあ。
「落ち着きなさい!ゆっくりでいいから、こっちに来なさい!」
「あのさあ」とあたしは答える。「ほっといてくれないかな。それにぃ、プールサイドでそんなカッコしてると盗撮ヤロウみたいだよ。帰れば」
「キミの言ってることはおおむね正しい。ただひとつ、ここはプールじゃなくて、手すりの無いビルの屋上だってことを除いては」
え?あたしはプールに視線を戻す。かっこいい男の子は「ちっ」と舌打ちし、大きく息を吸ってから水に潜った。
「あ、待ってよ」
あたしはあわてて頭からダイブした。子供のころから水泳は得意なんだ。すぐに追いついてやる。
でも水の音はいつまでも聞こえてこなかった。