発掘 作:まりえしーる 発表日: 2005/05/02(Mon) 13:22


高校2年生の娘が遺跡発掘調査のアルバイトを始めた、そう妻に聞かされた時は特に驚かなかった。あいつは生まれたときからずっと変わった子供だったからな。変わった子供。物心ついたころから私に妙に距離を置き、常によそよそしかった。何を考えているのかわからない娘。ふと気付くと恐ろしく醒めた目で私を凝視していることが何度もあった。こちらが見ると、くるりと背を向け自分の部屋に去ってゆく。娘が父親を忌避するのはよくあることだ。家庭生活の煩雑さから逃げるように仕事に没頭し、日々の暮らしのすべてを妻に押し付けてきた私のような男には、とりわけ受けて当然な報いなんだろう。そう諦めてきた。おとなしくて勉強好き、一度も問題を起こしたことのない手のかからない娘。それだけで十分じゃないか。

その娘が夏休みの間2週間泊り込みのアルバイトに行ったという。場所は××県〇〇山だと聞いて嫌な予感がした。

その娘が1週間後に、仕事中の私の携帯に電話してきたときは驚いた。中学入学の時に携帯を持たせて以来、私にかけて来るのは初めてのことだったからだ。

「どうした。事故にでもあったのか。まさかケガなんかしてないだろうな」
「長かったわ…。20年もかかっちゃった…」
「なんの話だ、20年って。お前まだ17だろう」
「20年よ、あたしにもあなたにも」

それだけで通話は切れた。

××県〇〇山中で遺跡調査隊が女性の白骨死体を発見、というニュースを新聞で知ったのは次の朝のことだった。
20年前に取締役の娘との結婚を決めた時、私には深い関係になっていた別の女がいた。地味で従順な都合のいい女。結婚前に身辺をまっさらにしておきたかった私は、ある夜彼女に別れを告げた。私の人生から静かにフェイドアウトしていくだけの存在としか思っていなかったその女は、意外なことに普段の従順な仮面をかなぐり捨てて嫉妬と執着の鬼と化した。絶対にその結婚は許さないとわめき出し、私は自分の甘さを思い知った。都合のいい人間などこの世にいるはずがないのだ。彼女は結婚相手の家に今から行く、連れて行け、という。行って何をする気だ、と尋ねると「先に妊娠したのはあたしなんだから、もうあきらめなさい」と告げてやる、という…。

ストッキングで首を絞めた後、彼女を埋めに行った場所が××県〇〇山だった。


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